いい子の内側
私はかつて、「良い子」だと言われていました。いつもニコニコして、キチンとしたいい子。正義感のある、勉強もするいい子。
でも、そんなの全部嘘っぱちでした。
私は人を騙すことに抵抗がありませんでした。嘘をつくことを日常的に繰り返していました。うまく辻褄を合わせてはいましたが、やがて自分でもどこまでが嘘だったかわからなくなりました。どこまでが嘘でも、そんなことはどうでも良かったのです。
私は物を盗むことにも抵抗がありませんでした。よく物を盗みました。売り物を盗むことよりも、公共のものや友達と呼ばれる人の物を奪うことが好きでした。
ゴミを漁ることが好きでした。廃品回収に出された物を漁っては、自分の家に持ち帰っていました。マンガの束や、服。捨てられたもの達からは、幸せな家族の残り香が感じられるんです。夢の欠片のように思えたのです。母は私がゴミを持ち帰っていることを知っていましたが、なにも言うことはありませんでした。
自分でも驚くほどに、私の倫理観は欠如していました。
いつも人の顔色をうかがい、その人にとってのいい子であろうとしていました。愛想を振りまいていました。でも内心では、人を傷つけることに何の痛みもありませんでした。むしろ、目の前で人が涙を流したり、苦しんでいる様を見ることは快楽でした。
小さい頃、随分と「社会貢献」という言葉を口にしました。「人のために、人を助けるために、もっと頑張りたいと思います」。でも、本当にその時の私が救って欲しかったのは、他ならぬ自分自身でした。
よく言われたものです、うちの子もあなたみたいなら良かったのに。ニコニコしていました。うまく騙せていると思っていました。本当にうまく騙されていたのは、目の前にいる人間ではなく、私だったのかもしれません。