奴隷船の乗り心地
真綿が敷き詰められた奴隷船、あるいはサーカスの綱渡り。
奴隷船で死ぬことはないけれど、少しずつ足が腐ってゆく。
うっかりではない。
実のところ、強引に、かつ意図的に奴隷船から抜け出した。
はじめて地に足がついたようで、ざらざらとした感覚が気持ち悪い。
責任だとか、義務だとか、権利だとか、どーでもいい。
公共の福祉なんて知ったことじゃない。
初めての感覚なんだ。
まだよくわからないんだ。
ただ一つ確実に言える。もうあの船には乗らない。
足は腐ってないか?
頭はどうだ?
走るとはどんな感覚だろう。
物心ついた時から、蜘蛛の糸の上を綱渡りしているみたいだった。
いつぷつりと切れるのか。
落ちたらどうなるのか。
…どこまで落ちるのか。
全てが不安だった。
ここが落ちた底なら、なんだ、奴隷船よりマシじゃないか。
「奴隷船の乗り心地は酷いものだったよ」
そういってケロリと、笑える人になりたい。