根無し草の本懐
父は私に言いました。
「僕はお前のかあさんに騙されて結婚したんだ。お前のかあさんが騙したんだ」
母は私に言いました。
「あなたの父さんはマトモじゃない。精神が異常なの。狂ってるのよ」
私はいつも笑っていました。
母は辛いことがあると実家に戻り、父と母に話を聞いてもらいます。
父も辛いことがあると実家に帰り、母に慰めてもらいます。
私は誰に救いを求めて、どこに行けば良いのでしょうか。
私はなぜ生まれ、今日まで生かされたのでしょうか。
私は体が弱く、幾つかの病気を抱えています。本来私は、長く生き存えるべき人間ではなかったのかもしれません。それでも今日まで多くの薬を飲みこんで生きてきました。
私には故郷と言える場所がありません。
帰りたいと思える場所もありません。
「もう一度人生をやり直せるのなら、いつに戻りたいか?」
たいした人生を歩いたわけではありませんが、今まで過ぎた時間の中に、もう一度戻りたいと思える時間はありませんでした。
だったら、このまま歩くか、諦めて死ぬしかないわけです。私はとある一つの事情を除いて、自分から死ぬ度胸はありません。
願わくば、いつの日か。
そう、いつの日か。心がまことに安らげる、ふるさとに辿りつくことを。